November 18, 2008

魂を揺さぶられた・・・/「虐待」は「狂気」か?

魂を揺さぶられた。
NHKのドキュメンタリー「微笑と虐待~証言 アブグレイブ刑務所事件~」
17日(月)午後10時から放送。会社でテレビに釘付けになった。
(再放送もあるだろうから、見逃した方は是非。以下ネタバレです)

リンディ・イングランド。裸の捕虜を前に笑っていた彼女は、禁固3年の刑に服している。仮釈放の身で、事件から5年、初めてテレビカメラの前で、なぜあんなことをしたかを、自分の思いを、とつとつと、言葉を選びながら、語る。生まれてこのかたトレーラー住まい、つまりは貧困層。そこから抜け出したくて、予備役に志願したという。

あれは日常的なことだった(「虐待」を彼女は自分の言葉として使おうとはしなかった)。上から命令されたと周りのみんなが言っていた。おかしいとは思った、しかし戦時中は誰もみな不安定になるものだ。私はたまたまそこにいただけ。たまたま写真に写っただけ。有罪の理由は、そこにいたから。写真に写ったから。

そして、彼女も軍の方針の犠牲者にすぎなかったことが、丹念に明らかにされていく。

アブグレイブ収容所の所長だったジャニス・カーピンスキー大佐は、頭脳明晰な女性らしく、理詰めで、しかし沸き上がる怒りに少しずつ興奮した語り口になっていく。最後には、捕虜虐待で有罪になった7人は「写真を撮ったから軍そして政府上層部の怒りに触れたのだ、写真を撮ったことで有罪になったのだ」と身を乗り出して大きな声で言い放つ。

私にとってのクライマックスは、偶然に虐待写真を入手し、悩んだ末に匿名で告発した兵士が、ラムズフェルド国防大臣その人に恐ろしい目にあわされる場面。あのラムズフェルドは、告発を「英雄的行為」とたたえながら、本人に何の断りも無しに、実名を議会証言でいきなり公表したのだ。なんという報復。兵士は間もなく裏切り者として軍を去らざるを得なくなった。保守的な土地柄の故郷にも帰れなくなってしまった。「同胞を裏切った者」として恨みを買った結果、地元の住民から危害を加えられる恐れがあるからだという。なんという。非道い。非道すぎる。そして、今後、米軍兵士は誰一人、告発などという割に合わない馬鹿げたことを二度としないだろう。

アブグレイブの虐待が明るみに出て5年。このテーマをここまで追いかけ続けたテレビマンの魂に震えた。エンドロールの最後に、NHKと並んで、制作オルタスジャパンとあった。オルタスジャパンは優秀なディレクターを抱える制作プロダクションだ。あのエンドロールの位置からすると、おそらく、このネタを追いかけ続けたのはNHKプロパーではなく、オルタスジャパンのディレクターではないだろうか。誰であれ、その粘り強さとあきらめの悪さに、心から、拍手。

番組HP
http://www.nhk.or.jp/special/onair/081117.html
「彼らの証言から浮かび上がってきたのは、アメリカがイラクの民主化という「善意」とテロとの戦いという「理想」を掲げる一方で、密かに進行していたアメリカ軍の狂気そのものだった。」

「狂気」。なんとまあ陳腐な言葉だと思う。番組を通じて要所要所に妙におどろおどろしい音楽が演出的にかかっていたのが気に入らなかったが、番組の制作責任者が、あのすべての騒動を「狂気」と理解しているからかと思うと、妙に納得がいった。

あれは狂気などではない。狂気ならば救いがある。狂気は、一時的な、情に突き動かされた、衝動的なものだ。

実に冷静に計算された拷問方法と、告発者への報復と、あまりに分かりやすいトカゲのしっぽ切り、責任逃れ。人間とは冷徹にそういう計算ができる生き物だ。だからこそ恐ろしい。その性質と、闘わなければ。どう闘う?分からないけれど。その性質と、闘いたい、と思った、学生の頃の情熱を思い出した。

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